「照明を付け替えたい」「ここにコンセントがあれば便利なのに」――暮らしの中で、ふとそんなことを感じる場面は少なくありません。最近では動画や記事を見ながら、自分で手を動かして直す人も増えてきました。けれど、電気に関わる作業となると、話は少し違ってきます。
配線工事には感電や火災のリスクがあるため、法律で「資格を持つ人にしかできない作業」が定められています。とはいえ、家庭の中で誰でもできる作業があるのも事実です。たとえば、簡単な照明器具の取り替えや、差し込み式の延長コードを使った配線整理など、資格が不要な範囲もあります。
この記事では、「どこまでなら自分でやっていいのか」「どこからがプロの仕事になるのか」といった線引きについて、わかりやすく整理していきます。まずは、自分でできる範囲から確認していきましょう。
一般の人が行える配線作業の範囲とは
電気工事には、法律で定められた「できること」と「できないこと」があります。一般の方が行える作業も確かに存在しますが、それはあくまで「電気の配線そのものに手を加えない」範囲に限られています。
たとえば、照明器具の交換がそのひとつです。天井に引っ掛けシーリングという金具が付いていれば、そこに新しい照明を取り付けることは問題ありません。これは電気配線をいじる作業ではなく、器具の取り替えに過ぎないため、資格がなくても行える作業です。
また、コンセントに差し込むだけの延長コードを使って、家具の配置に合わせて電源を取るのも、もちろん問題ありません。市販の電源タップやUSB付きのコンセントなども、工事不要で扱える便利な道具のひとつです。
ただし、壁の中にある電線をいじったり、新しく配線を引いたりする場合は、話が変わってきます。こうした作業は「電気工事士」の資格が必要であり、無資格で行うことは法律違反になります。作業中の事故だけでなく、あとから起きる火災や漏電など、思わぬトラブルにつながることもあるため注意が必要です。
「作業ができるかどうか」だけでなく、「それをやってよいかどうか」をきちんと知ることが、安全な暮らしには欠かせません。
法律で制限されている作業とその理由
電気の配線をいじる作業には、「電気工事士法」という法律が関わってきます。この法律では、一定の作業については資格を持つ者しか行ってはならないと定められており、無資格のまま配線工事をすると処罰の対象になる場合もあります。
たとえば、壁の中にある電線をつなぎ直したり、新しく配線を追加したりといった作業は、明確に「電気工事」にあたります。これらの作業は一見簡単そうに見えるかもしれませんが、配線のつなぎ方ひとつで発熱や火花が発生することもあり、万が一の事故につながる危険性があります。
また、誤った工事によって電気がうまく流れず、家電が壊れてしまったり、最悪の場合は火災が起きたりすることもあるため、専門的な知識と技術が求められるのです。これは個人の家であっても例外ではなく、たとえ自分の家の作業でも、法律に違反することは許されていません。
一方で、資格を持つ電気工事士であれば、法令や施工基準を理解し、安全性を確保したうえで作業を行うことができます。見た目には問題がなさそうでも、内部で電線が焼けていたり、接続が甘かったりすることがあり、それを見抜くには経験と技術が必要です。
安全のために定められた法律を「面倒な制限」と思わず、安心して電気を使うためのルールと捉えることが、家庭でも大切な心構えです。
自分で作業する場合のリスクや注意点
「自分でできそうだから」と、見よう見まねで配線を触ることには、思っている以上のリスクが潜んでいます。たとえ見た目がうまく仕上がっていても、内部で線がゆるんでいたり、正しくつながっていなかったりすれば、あとからトラブルになる可能性があります。
もっとも怖いのは、感電と火災です。特に、作業中に誤って通電した線に触れてしまえば、命に関わる事故になることもあります。また、目に見えない部分で電線が傷んでいたり、異常な熱が発生していたりすると、数日後や数か月後に火事を引き起こすおそれもあります。
さらに、壁の中に隠れる配線部分であれば、あとから不具合が見つかっても原因がわかりにくく、修理に手間と費用がかかることもあります。「節約のために自分でやったのに、かえって高くついた」というケースも珍しくありません。
また、大家さんのいる賃貸住宅や共同住宅では、自分で配線をいじることが禁止されている場合が多く、勝手な工事はトラブルのもとになります。退去時に修繕費を請求されるケースもあるため、事前に確認しておくことが大切です。
たとえ小さな作業であっても、「これは本当に自分でやっていいことなのか」「安全にできるのか」を冷静に判断することが重要です。無理をせず、迷ったときは専門の業者に相談するという姿勢が、結果的に安全で、安心できる暮らしにつながります。
専門業者に依頼したほうがいいケース
「できることは自分でやりたい」と思っても、電気工事には専門の知識や技術が必要な場面が多くあります。以下のようなケースでは、無理をせず専門業者に依頼するのが安心です。
まず、壁の中にある配線に手を加えるような工事です。たとえば、コンセントの位置を移動したい、新しいスイッチをつけたいといった作業は、配線の接続や切り替えが必要になります。これらはすべて、資格がなければ行えない工事にあたります。
次に、電気容量を増やしたいとき。電子レンジやエアコンなどを同時に使うとブレーカーが落ちる、という経験がある方もいるかもしれません。こうした場合、分電盤の増設や回路の見直しが必要になることがありますが、これも有資格者でなければ触れない領域です。
また、火花が出た、焦げ臭いにおいがする、といった「異常」がある場合は、原因の特定から修理までを確実に行うために、早めに専門業者に依頼することをおすすめします。こうしたトラブルは時間が経つほど悪化することが多く、早期対応が安全確保の第一歩となります。
電気工事業者の中には、相談だけでも気軽に応じてくれるところもあります。「こんなことで相談していいのかな」と思うようなことでも、まずは話をしてみることが、安心につながります。
自宅でできるメンテナンスや工夫の紹介
配線そのものに手を加えることは難しくても、日ごろの点検や使い方の工夫で、安全性を高めることは十分にできます。
たとえば、電源タップの差し込み口にホコリがたまっていないかを定期的に確認すること。ホコリが湿気を含むと、そこから火花が飛んで火災の原因になることがあります。また、タコ足配線になっていないか、コードが踏まれて傷んでいないかなど、目につきやすい部分をこまめに見ておくことも大切です。
さらに、使っていない家電のプラグをこまめに抜く、コンセントまわりを整理するなど、日常の小さな工夫でリスクを減らすことができます。安全な環境は、こうしたちょっとした心がけの積み重ねから生まれます。